おしゃべりが好きなあの子は場地圭介を助けたい
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私は家の喫茶店の手伝いをしている。
そこには羽宮くんにも手伝ってもらっていた、学生生活以外にも何か関わりがあった方が良いと思ってのことだ、
羽宮くんは案外真面目でおまけに顔の良さからお客さんからの評判もよかった。
「ねえ羽宮君」
「ん?」
「うちで働くの楽しい?」
「まあ、結構たのしい、かな」
「それは良かった」
「さんの親にも感謝してる」
「そうなの?どうして?」
「だって俺みたいなやつに優しいし」
「別に普通だと思うけど、そういう風に言ってもらえたら私の親も喜ぶわ」
なんか羽宮くんって年上なのに素直でかわいい子だな、弟がいたらこんな感じなのかな。
カラン、とドアベルが鳴る音がした、振り向くと
「ようタケミっち連れてきた」
ドラケンくんと場地くんがいた、そしてなんだかそわそわしている男の子が二人に挟まっていた。
「初めまして、花垣武道っていいます!!」
「初めまして、です」
元気よく挨拶してくるものだから、こちらも丁寧にあいさつをする、
怪我の跡があったりと、この人も不良なのかな? なんて思った。
「場地くんこの人は?」
「俺のダチだ」
「もっと分かりやすく答えてよー東卍の新しい人なの?」
「あっいえ東卍には入ってません、俺」
「そう俺が見つけた♡」
マイキーくんがひょっこり現れた、そしてその後ろから松野くんも入ってきた。
「すまん、ちゃんこんなに連れてきて」
「別にいいけどちゃんと飲食してお金払ってよね~」
「守銭奴だな」
場地くんが呆れた顔で言ってきた。
「当然でしょ」
「ほんっとお前相変わらずだなあ」
うちだって慈善事業でやってないのだ、来たからにはしっかり飲食してお金を払っていただきたい。
「あれ?一虎じゃね?」
マイキーくんがそう言うと羽宮くんはびくっとしていた
「うちの店手伝ってもらってるの、すごく助かってるよ」
「へぇーそっか!よかったじゃん!」
羽宮くんが困ったような顔をしていた。
「……一虎、俺は今でもお前の事ダチだって思ってる、東卍に戻らなくてもだ」
マイキー君は真剣な目で羽宮くんに言った。
「...ありがとう」
この会話を聞いて私は少し安心した。
「ところで花垣くんは何関係の友達よ?」
「喧嘩賭博でやり合ってたところ拾った! めっちゃおもしれえやつでさー」
「喧嘩賭博!?」
私は思わず大声を出してしまった。
「うん!だからタケミっちは俺のダチ!」
「マイキーくんの言う通りです!」
「怪我とかさせてない?」
「逆だって、俺が止めたの東卍の名前使ってやってたから」
「はぁ、良かった……ん? 待ってそれヤバくない? 東卍の名前で喧嘩賭博するなんて」
「確かにヤベェかもな」
やっぱり組織が大きくなると一枚岩じゃなくなるのかなぁ……
***
数日たったある日、
羽宮くんが手伝いに来る日に来ない。羽宮くんの携帯に連絡しても返事が来ない、
羽宮くんの母親も警察に届け出を出そうか迷っていたようだ、場地くんも松野くんも必死で探してくれている。
「よお、さん」
羽宮くんはうちの店の近くにまで来ていた。
「どうしたの!? その、血が」
「なんでもない…すっぽかして悪かった」
羽宮君の顔は大きく腫れていた腕も血だらけだ。
「そんなことどうでもいいよ! それより病院行こう! だれかにやられたの?」
「……年少出る時に芭流覇羅って暴走族に誘われたんだ、その時は俺、おかしかったから入っちまったけど……
でももう縁を切ったはずなのに」
どうやら東京卍會を潰す目的でできたチームで羽宮君も一役買って出ていたらしい……
「なるほど、だから東卍には絶対関わらないように頑張ってたんだね、羽宮くんは」
羽宮君がうなずいた。
「とりあえず警察に連絡しよう、傷害罪だし」
「だめだ! 警察は!!」
「どうして? 羽宮くんたちが捕まるわけじゃないのに」
「でも……捕まらなかった奴らがどう動いてくるかわからねえ」
泣きそうな顔をしている羽宮くんを見ると余程深刻な事態が起こっていることが分かった。
とりあえず病院に行き処置してもらった、病院の待合室にいると
「! 一虎は!?」
「場地くん、一か月したら治るって……でも」
実際見てもらったら骨折や打撲などひどい状況だった、それでも頑張ってうちまで来てくれたんだ。
「場地くん、芭流覇羅って知ってる?」
「ああ、知ってる俺は一虎が年少から出てきた時に誘われたんだ」
「やっぱりそうなんだ」
だからあの時場地くんの家の前まで来てたんだ羽宮君、と納得した。
「……なあ、一虎の事頼むわ」
場地くんは真剣な目で私に言ってきた。
「頼まれなくてもわかってるよ」
「そうか!」
そう言いながら私の頭を頭を撫でて来る、場地君に撫でられるのは嫌いじゃない、頼られて嬉しい。
でも、私は場地くんの事も心配になる。
「その代わり私は場地くんのことも面倒見るからね」
気の利いた言葉が見つからなくて図々しい言い方をしてしまう。
「相変わらずだな、おまえは」
そう言った場地くんは少し笑っていた。
***
翌日、学校に行くと松野くんが声をかけてきた。
「昨日はありがとな、場地さんの事も一虎くんの事も」
「松野くんも聞いたのあの話?」
「あぁ芭流覇羅の事だろ」
「そう、やっぱり暴走族って入ると中々抜けられないものなの?」
「いや、抜けることは出来ると思うけど……」
歯切れの悪い答え方だ。
「…やっぱり見せしめ? とかあるのかな?」
「まあ、そういうところもあるだろうな」
場地くんや松野くんと仲良くして、東卍の人とも知り合って、感覚おかしくなってたけどやっぱり暴走族って怖いなと思ってしまう。
「東卍も同じなの?」
「違う! 東卍は仲間思いだし、女に手を出すようなやつは居ない」「ごめん、そうだよね……」
野暮な質問をしてしまった、今までも東卍の話をしていてくれたのに。
思えば松野くんとは小学校からの顔馴染みではあったけど、中学に入ってからの方が話しやすく感じている。
「ねえ、松野くんは場地くんと会ってから変わったの?」
「うーん、俺が変わったっていうより場地さんがいると素直に尊敬できるっつーかこう……ぐっとくるものがあるんだよ」
「……なんかわかる」
「だろ!」
まあ……私は未来視で自分の命を投げ出している場地くんを視て惹かれたし助けたくなったんだけども。
「つーかちゃんの方が場地さんに会ってから変わったよな」
「えっそう見えるの?」
「あぁ前は人との線を上手く引いてるドライな奴だと思ってた」
確かに未来視が出来ると気づいてから、気味悪がられないように人との距離感には気を付けている。
「……そうなのかも、ってかよく気づいたね」
「そりゃあなー小難しい事言うのは変わってねぇけどな!」
「えー、 前よりも分かりやすくなったと思う…よ?…」
それでもこんな私を否定しないで笑ってくれる松野くんは優しいなって思った。
***
ここ一週間以上場地君と会っていない、というより見かけても挨拶する隙も与えてくれず素っ気ない、
松野くんも言葉を濁してくる。
何かあったんだな、ということは分かるけどここまで距離を置かれると中々こちらからは踏み出しづらい。
今日も放課後になり羽宮君がいる病院に見舞いに行った。
羽宮君はまだ眠っていた、包帯を巻いている腕を見て胸が痛む。私の未来視は不完全だ、不甲斐ない。
「羽宮くん、大丈夫だからね」
髪の毛をそっと撫でた、場地くんはどうしているだろうか。
帰り道にふとコンビニに寄った。雑誌コーナーで立ち読みをしていると肩を叩かれた。
「、こんな所で会うなんて奇遇じゃね?」
「ドラケンくん! あれ? そこにいるかわいい女の子はもしかして彼女さん?」
「ちげえよ! エマ! マイキーの妹!!」
「こんにちは~、佐野エマです!」
明るくかわいいギャルだ……
「ってことはマイキー君の妹がドラケン君の彼女ってわけね」
「だから違ぇよ!」
エマちゃんは少し顔を赤くしていた、かわいい。
「ところでなんでは一人でここにいんの?」
「羽宮君のお見舞いに」
「ああ芭流覇羅にやられたやつか」
「ドラケンくんはどうしてここに居るの?」
「ん?オレも病院行ってた、前刺されたところの経過観察ってやつ」
「ああ、たしか愛美愛主って所の抗争だったよね」
「まあこの通りもうピンピンしてるけどな」
ドラケン君が笑いながら自分が刺されたであろうお腹をパンっと勢い良く叩くと
「ドラケン! あんまり無理しないでよ!」
エマちゃんが膨れっ面で心配しながら言った。
「こんくらいで心配すんなって」
そう言いながらドラケンくんはエマちゃんの頭を撫でた、
エマちゃんの気持ちを思うとなんだか切なく感じた。
「っていうか東卍ってこんなに血なまぐさい抗争ばっかりなの?」
松野くんから散々聞かされていた喧嘩話よりなんというかきな臭い気がする。
「なぁ、この後時間あるならちょっと付き合ってくれねえか?」
「いいよ」
エマちゃんと一旦別れてからドラケン君と歩きながら会話する。
「お前一虎が狂ってたのを助けたんだよな、改めて礼を言う」
「前にも言ったけど私はたまたま居合わせただけだから、たいしたことしてない」
あの一件からすぐ東卍の人たちにお礼を言われたときはびっくりした、
「なぁさ、あいつのことどう思ってる?」
「あいつって?」
「稀咲鉄太のことだよ、最近パーの変わりに隊長になった!」
ドラケン君は私が東卍の事情に詳しい人間だと勘違いをしているようだ、
残念だが場地くんも松野くんもあまり詳しく話してくれない。
「...信用できない人間の事を隊長にしたの?」
「マイキーが隊長にするって」
「へぇ、それで?」
「はどう思っているのか知りたくなった」
「...正直稀咲鉄太って人の事、よく知らないからあんまり分からないけど、いきなり隊長になるっていうのはなんで?」
「それは……」
「マイキー君は何か持ち掛けられたんじゃないの」
「……まぁな、マイキーは稀咲を隊長にするってかたくななんだよ」
「うーん、その人がよっぽど優秀なのかな?」
東卍みたいな大きい暴走族をまとめるにはもっと優秀な人が必要なのだろうか?
「っていうかお前よく知らないって言ったくせにやっぱり分かってんじゃねえか」
ドラケン君は、にかっと笑いながら私の背中をペシペシと叩く。
「いや、だから憶測なんだってば」
憶測というより、あの未来視で見た惨劇から東卍の事は疑ってみてしまう所がある、
あんなに大きな組織に皆が足並みそろえて同じ気持ちでいるわけがない。
「ところでさ、最近場地君は東卍ではどんな感じなの?」
場地君は最近、私との距離を確実に離そうとしている。
「あいつも最近なんかコソコソしてっるっつーか読めないんだよなあ」
と言ってドラケン君は頭をかいた。
そんな話をしているうちに渋谷についた、私は特に用事がないのでそのまま帰ろうとしたら。
「なぁ今日場地に会いてえか?」
「会いたい、すごく」
即答した。
ドラケンくんは私を連れて東卍の集会に連れてきた、まだ人はまばらで隊長格の人が数人しかいなかった。
そこには場地くんもいて、久しぶりに会えて嬉しいがその顔は不機嫌そのもので……。
「場地くん……」
「お前なんでここいるんだよ、来ちゃいけねえだろ」
「だって最近学校来ないし、来ても素っ気ないじゃん!」
「うっせぇなぁ、俺今忙しいんだよ、さっさと帰れ」
とイラついた様子で私の肩を押す、私はその態度に腹が立ち思いっきり彼の頬をビンタしてしまった。
「いっでぇな何すんだ!」
「羽宮くんを私に託してあんただけで芭流覇羅の件何とかしようとしてることぐらい分かるんだから!!!」
「はぁ? なんの事言ってんだよ」
「場地くんは自分を過信しすぎなんじゃないの? 自分の限界を知って周りを頼りなさいよ!」
「うるせぇなぁ! てめぇには関係ねぇだろうが! 黙れよ!」
「はぁ? 関係ないわけないでしょう! いつも危ない道に行く場地くんを私は助けたいの!!」
こんなに場地くんと言い合うなんて初めてだ、いつもの場地くんはこんな私にも優しくて面倒見がよくて…
「……んで……んだよ」
とボソリと言った後彼の目は涙を溜めていた。
「え?ちょ…ごめん言いすぎたよね! 謝るから許してよ!」
私も涙が出てきた、言い合いなんてやっぱり柄じゃない。
「俺はに貰いすぎたと思ってるくらいに感謝してんだ、俺と一虎を助けてくれた」
「別に何かをあげたつもりはない、ただ心配だっただけで」
「でも俺はお前を巻き込みたくなかった、巻き込めば必ず後悔するって分かってたから」
なんとなくはわかってた、場地くんは私から抗争に巻き込まないように避けてたことを、
それでも私は彼の気持ちを裏切るのだ。
「...…私は場地くんに感謝してるの、もう貰ってるの、こんなにまっすぐな人見たことがなくて本当の良い人間は場地君みたいな人だと私は思ったの、だから私は場地君を絶対守るって決めてるから」
「っ……」
私の肩に場地君は頭を置いた、その頭を撫でた。
「おいコラ! そこイチャついてんじゃねえぞ!」
マイキー君の声が聞こえたので顔をあげると、幹部の皆さんがじーっと私たちを見ていた、
急に恥ずかしくなる、そこへドラケンくんが来た。
「わりぃなちょっと借りるわ」
「おう、すまん」
場地くんは鼻をすすりつつ返事をした。集会が本格的に始まる前に私はエマちゃんに引き取ってもらうらしい、
「……お前相当場地に惚れてるな?」
ニヤリとドラケン君は笑う。
「うん……多分」
もう開き直るしかない。
「それより見てくれ」
ドラケン君が顎で方向を示す先には金髪で色黒眼鏡の少年がいた。
「……喧嘩強そうには見えないね」
「ああ、あいつが稀咲鉄太だ」
「で今日があの人の隊長任命式ってこと?」
「お前本当察しがいいな」
彼をよく見る
「ん?なんか見たことあるなあの顔」
何かおぼろ気な記憶がふわふわとあったような気がしたが思い出せなかった。
私はエマちゃんと集会が終わるのを待つことしか出来なかった、何とか見ようとしても遠すぎて見づらいしエマちゃんに止められた。
稀咲鉄太という男が隊長に任命され、なぜか花垣君が彼を殴ろうとしたが場地君と松野君がが止めてくれたらしい、
集会は終わり稀咲鉄太は隊長に任命された。
***
「帰るぞ乗れよ」
「うん」
さっき言い合いをしたばかりだからちょっと気恥ずかしいのだけれど。
「早くしろよ、置いてくぞ」
「はいはい」
バイクの後ろに乗りながら私は場地君の腰にしがみついた。
「場地君、ごめんねついてきちゃって」
今更ではあるが謝る私に
「別に気にしてねぇよつーかお前も言うこと聞かねえ人間だもんな」
……はいソウデスネ。
「でもお前のおかげで目が覚めたぜ、ありがとう」
耳元で言われると心臓に悪い。
「……どういたしまして」
「おーい俺いるんスけど」
「あっ松野くん……」
「いや、ちゃんと場地さんが仲直りして愛が深まる感じなのは大歓迎だぜ!」
「「はあああ!?」」
松野君のこっ恥ずかしい発言に私たちは顔に火が付いたんじゃないかってくらい赤面した。
「なぁ」
「何?」
「……俺はお前を巻き込みたくなかった、でもお前は俺を守りたいって言ってくれた」
「うん、場地君は一人で抱え込むから助けたいよ」
「なら俺たち一緒に守ろうぜ! 二人いれば場地さん無敵だろ!」
松野君が笑顔で言ってくれた。
「うん! 私たちだけじゃないよ東卍のみんな、そして一虎君もいる」
私は取るに足らない存在かもしれない、それでも私は出来る限り彼に尽くしたい、
そんなことを思える事がこんなにも嬉しい。